論文一覧に戻る 🕸 論文ネットワーク 🗺 用語ネットワーク 統計データ分析コンペ 教育用再現集
特別賞(統計活用)[高校生の部] ★

テレワークの拡大と通勤通学時間の
減少がもたらす影響と課題

⏱️ 推定読了時間: 約30分
2021年度(令和3年度)統計データ分析コンペティション | 武田 佳暖子・黒田 小晴(お茶の水女子大学附属高等学校) | SSDSE-D(社会生活基本調査)ほか(47都道府県) | 相関分析・偏相関分析・グループ別比較
🔬 グループ別比較🔬 偏相関🔬 相関分析🏷 交通🏷 文化・余暇🏷 IT・デジタル
🔬 手法タグ / 🏷 応用タグ(クリックで同タグの論文をネットワーク検索)
🔬 再現カルテ — 原論文と同じデータ・同じ手法で再現

この教材は原論文と同じデータを読み込み、同じ手順で計算し直しています。画面に出る数値と図は、あなたのブラウザがその場で計算した結果です。

原論文が使ったデータ論文本文からは特定できなかった
この教材が使うデータ
原論文(PDF)テレワークの拡大と通勤通学時間の減少がもたらす影響と課題
特別賞/武田 佳暖子・黒田 小晴(お茶の水女子大学附属高等学校)
✅ この教材でできること
  • 分析に使うデータは同梱済みで、ブラウザ上でそのまま読み込める
  • 数値・図を最後まで再計算できる(相関分析・偏相関分析)
突合監査の結果、主要データと中核手法はいずれも原論文と一致しています。

▶ ここに書いてある分析は、ページ下部の「🐍 ブラウザで動かす」でそのまま実行できます(インストール不要)。動かしているのは code/2021_H5_4_shorei.py(260 行)そのものです。

🏅 論文審査会コメント(審査員はここを評価した)
「コロナ禍での社会の変化に対する影響や課題を多種多様な項目で検証している点は評価できる。通勤通学時間という身近な問題を自然な仮説形成と実証で調べた流れは、高校生らしい素朴なデータ分析だが好感と納得感を持てる。」
出典:統計センター「統計データ分析コンペティション」受賞論文PDF掲載の審査講評。プロの審査員が何を評価し、何を注文したかは論文の読み方の最良の手本になる。
📝 3行で分かる要約

目次

  1. 研究のテーマと目的
  2. データと変数(表1・表2)
  3. 再現コード:データの読み込みと報告値
  4. 図1:通勤通学時間との相関一覧(報告値の可視化)
  5. 図2:通勤通学時間と睡眠時間(実再現)
  6. 図3:通勤通学時間と読書・音楽鑑賞(実再現)
  7. 主要な発見:4つの仮説の検証
  8. 図4:通勤通学時間と朝夜の生活時刻(実再現)
  9. 図5:健康4指標と自動車保有台数別(報告値の可視化)
  10. 結果の解釈
  11. まとめ
  12. データ・コードのDL
  13. ⚠️ よくある誤解
  14. 📖 用語集
  15. 📐 手法ガイド
  16. 🚀 発展の可能性
  17. 🎯 自分でやってみよう
  18. 🤔 Q&A
  19. 🐍 ブラウザで動かす

🎯 この記事を読むと何ができるようになるか

📥 データの準備(再現コードを動かす前に)

このページの通勤通学時間と睡眠・読書・音楽鑑賞・生活時刻の相関(図2〜図4)は、以下の手順で自分で再現できます。コードの編集は不要です。(健康4指標・自動車保有台数別・偏相関・テレワーク実施率などは本リポジトリ収録データだけでは再現できないため、原論文の報告値を可視化します=図1・図5。)

1
データをダウンロードする 独立行政法人統計センターの SSDSE(教育用標準データセット)配布ページから、以下をダウンロードします。
SSDSE-D-2023.csv ← SSDSE-D(都道府県別・生活行動/生活時間、社会生活基本調査)📥 直接DL
⬇ SSDSEダウンロードページを開く
2
ファイルを所定のフォルダに配置する ダウンロードしたCSVを、プロジェクトの data/raw/ フォルダに入れます。
2026 統計・データ解析コンペ/ ├── code/ │ └── 2021_H5_4_shorei.py ← 実行するスクリプト └── data/ └── raw/ SSDSE-D-2023.csv ← ここに置く
3
スクリプトをそのまま実行する ターミナルでプロジェクトルートに移動し、以下を実行します。
python3 code/2021_H5_4_shorei.py
図は html/figures/ に自動保存されます。
研究のテーマと目的

「通勤ストレス」という言葉があるように、長時間通勤や満員電車の負担は以前から問題視されてきた。そこへ感染症の流行でテレワークが一気に広がり、多くの人の通勤通学時間が減少した。テレワークには良い面が多いが、著者は逆に「通勤通学時間が減ることによる悪影響はないのか」という視点から出発する。

テレワークを推奨するなら、通勤通学時間の減少が私たちに及ぼす悪影響も考える必要があるのではないか。 本研究は、都道府県ごとに集計した公開統計を使い、通勤通学時間が健康・睡眠・読書/音楽鑑賞などの余暇とどう関係するかを相関分析で探り、通勤通学時間が減ったときに何が起こりうるかを考察する。

0.86
通勤通学時間×読書行動者率の相関(報告値 ρ)
0.91
通勤通学時間×音楽鑑賞行動者率の相関(報告値 ρ)
-0.77
通勤通学時間×睡眠時間の相関(報告値 ρ)
-0.69
通勤通学時間×生活習慣病受療者数の相関(報告値 ρ)
研究の問い 通勤通学時間は、①身体の健康、②読書・音楽鑑賞などの余暇活動、③睡眠時間、④朝夜の生活時刻と、どのような相関関係を持つか。そして通勤通学時間が減少すると、私たちの生活に何が起こると考えられるか。
分析のキモ:都道府県単位の集計データで比べる 通勤通学時間そのものは人によって違うが、著者は都道府県ごとの平均値(社会生活基本調査などの集計値)を使い、「通勤通学時間の長い県・短い県」で健康や余暇の指標がどう違うかを比較した。個人ではなく地域単位で関係を捉えている点に注意(=生態学的な分析)。

高校生の部 SSDSE-D(社会生活基本調査) 厚労省 各種調査・自動車保有台数ほか 相関分析・グループ別比較 偏相関分析

データと変数(表1・表2)

表1 使用したおもなデータ(都道府県別)

分類おもな項目出典(原論文)
生活時間・生活時刻通勤通学・睡眠・仕事・学業・休養くつろぎ・テレビ等の平均時間、起床・朝食・出勤・帰宅・夕食・就寝の平均時刻社会生活基本調査(2016)=SSDSE-D
行動者率(趣味・余暇)趣味としての読書、CD・スマホ等による音楽鑑賞、映画鑑賞、外国語、スポーツ各種、旅行、ゲームなど社会生活基本調査(2016)=SSDSE-D
健康平均歩数、生活習慣病受療者数、健康診断有所見率、医療費国民健康・栄養調査/患者調査/定期健康診断結果報告/医療費の地域差分析
人口・その他平均年齢、高齢化率、合計特殊出生率、自殺死亡者数、自動車保有台数、悩みやストレスのある者の率、学童保育設置率、食料自給率ほか人口問題研究所/総務省/厚労省/日本自動車工業会ほか

表2 作成したおもな指標と計算方法

指標名計算方法
人口10万人あたりの生活習慣病受療者数生活習慣病受療者数 ÷ 総人口 ×10万(悪性新生物・心疾患・脳血管疾患・糖尿病)
人口10万人あたりの自殺死亡者数自殺死亡者数 ÷ 総人口 ×10万
高齢化率65歳以上人口 ×100 ÷ 総人口
学童保育設置率学童保育数 ÷ 公立小学校数
再現可能性の整理(このページの図の作り方)
  • 実再現できる部分:通勤通学時間・睡眠時間・読書/音楽鑑賞の行動者率・起床/就寝などの生活時刻は、いずれも SSDSE-D(社会生活基本調査)に収録されている。よってこれらの相関は実データから再計算できる(本ページの図2・図3・図4)。ただし収録版が2023年版(=2021年調査)で、原論文の2016年とは調査年が違うため、値は報告値と完全には一致しない(図の中に年を明記)。
  • 報告値の可視化(再計算ではない):健康4指標(医療費・平均歩数・生活習慣病受療者数・健康診断有所見率)、自動車保有台数別の相関、平均年齢/高齢化率を統制した偏相関、テレワーク実施率などは、厚労省の各種調査や自動車保有台数などSSDSE-D外のデータに基づく。よってこれらの相関係数は原論文の報告値を転記して可視化する(本ページの図1・図5)。新たな数値の再計算ではない。
使う統計手法
通勤通学時間と
各指標の相関
気になる相関で
仮説を立てる
偏相関
年齢を除去
グループ別比較
(自動車・男女・年代)

原論文は、まず通勤通学時間とさまざまな指標の相関を求める事前分析を行い、相関の強いものから仮説を立てて検証していく流れをとっている。

1
再現コード:データの読み込みと報告値の転記

まず、通勤通学時間を SSDSE-D から読み込み(実データ)、続いて原論文が表3で報告した相関係数を辞書に写し取る(報告値の転記)。この2つを分けて扱うのが再現の要である。

やってみようSSDSE-D を読み込み、通勤通学時間を用意する
  • ① このコードの目的:SSDSE-D を cp932・header=1 で読み込み、男女計(0_総数)の47都道府県だけを残す。列「通勤・通学」=通勤通学時間(総平均時間・分)を数値化する。
  • ② 前後のつながり:ここで用意した d を土台に、以降で睡眠・読書・音楽鑑賞・生活時刻との相関を再計算していく。
📝 コード
56
57
58
59
60
61
62
63
64
65
d = pd.read_csv(DATA_D, encoding='cp932', header=1)
d = d[d['男女の別'].astype(str).str.contains('総数')]
d = d[d['都道府県'] != '全国'].copy()

COMMUTE = '通勤・通学'          # 総平均時間(分)=通勤通学時間の代理指標
d[COMMUTE] = pd.to_numeric(d[COMMUTE], errors='coerce')
print('SSDSE-D 読み込み: N =', len(d), '都道府県  (調査年: 2021年)')
print(f'通勤・通学時間(総平均時間): 全国的な平均 {d[COMMUTE].mean():.1f}分  '
      f'({d[COMMUTE].min():.0f}{d[COMMUTE].max():.0f}分)')
print(f'最長: {d.loc[d[COMMUTE].idxmax(), "都道府県"]}  最短: {d.loc[d[COMMUTE].idxmin(), "都道府県"]}')
▼ 実行結果
SSDSE-D 読み込み: N = 47 都道府県  (調査年: 2021年)
通勤・通学時間(総平均時間): 全国的な平均 27.7分  (22〜36分)
最長: 埼玉県  最短: 秋田県
  • ④ 実行結果の読み取り:全国的な平均は約28分、最長は埼玉県、最短は秋田県。都道府県で通勤通学時間に約1.6倍の差があり、この差が以降の相関分析の横軸になる。
やってみよう原論文の報告値(表3の相関係数)を辞書として持つ
  • ① このコードの目的:原論文(PDF表3)が2016年データで求めた通勤通学時間との相関係数ρを、31指標ぶん辞書に転記し、値の小さい順(負→正)に並べて表示する。ここは再計算ではなく報告値の転記
  • ② 前後のつながり:この報告値が図1(相関一覧)の材料になる。実再現できる睡眠・読書・音楽鑑賞などは、あとで実データと突き合わせる。
📝 コード
74
75
76
77
78
79
80
81
82
83
84
85
86
87
88
89
REPORTED_T3 = {
    '映画館以外での映画鑑賞': 0.90, 'CD・スマホ等による音楽鑑賞': 0.90, '外国語': 0.90,
    '海外旅行(観光)': 0.89, '写真の撮影・プリント': 0.88, '趣味としての読書': 0.86,
    '映画館での映画鑑賞': 0.85, '水泳': 0.85, '遊園地・動植物園・水族館の見物': 0.81,
    'ポピュラー音楽・民謡曲鑑賞': 0.80, 'テレビ・パソコンゲーム': 0.80, '楽器の演奏': 0.79,
    '登山・ハイキング': 0.77, 'テニス': 0.75, 'インターネット人口普及率': 0.73,
    'カラオケ': 0.71, 'サッカー(フットサル含む)': 0.70, 'サイクリング': 0.70,
    '育児': 0.66, '平均歩数': 0.64, '特許等出願件数': 0.56, '学童保育設置率': 0.56,
    '悩みやストレスのある者の率': 0.42, '自殺死亡者数(人口10万人)': -0.46,
    '合計特殊出生率': -0.49, '休養・くつろぎ': -0.57, 'テレビ・ラジオ・新聞・雑誌': -0.58,
    '食料自給率(カロリーベース)': -0.58, '生活習慣病受療者数(人口10万人)': -0.69,
    '平均年齢': -0.69, '睡眠': -0.77,
}
items = sorted(REPORTED_T3.items(), key=lambda x: x[1])
for k, v in items:
    bar = '#' * int(round(abs(v) * 20))
▼ 実行結果
=== 報告値:表3 通勤通学時間との相関係数一覧(原論文2016年の報告値)===
  睡眠                       -0.77  ###############
  生活習慣病受療者数(人口10万人)        -0.69  ##############
  平均年齢                     -0.69  ##############
  テレビ・ラジオ・新聞・雑誌            -0.58  ############
  食料自給率(カロリーベース)           -0.58  ############
  休養・くつろぎ                  -0.57  ###########
  合計特殊出生率                  -0.49  ##########
  自殺死亡者数(人口10万人)           -0.46  #########
  悩みやストレスのある者の率            +0.42  ########
  特許等出願件数                  +0.56  ###########
  学童保育設置率                  +0.56  ###########
  平均歩数                     +0.64  #############
  育児                       +0.66  #############
  サッカー(フットサル含む)            +0.70  ##############
  サイクリング                   +0.70  ##############
  カラオケ                     +0.71  ##############
  インターネット人口普及率             +0.73  ###############
  テニス                      +0.75  ###############
  登山・ハイキング                 +0.77  ###############
  楽器の演奏                    +0.79  ################
  ポピュラー音楽・民謡曲鑑賞            +0.80  ################
  テレビ・パソコンゲーム              +0.80  ################
  遊園地・動植物園・水族館の見物          +0.81  ################
  映画館での映画鑑賞                +0.85  #################
  水泳                       +0.85  #################
  趣味としての読書                 +0.86  #################
  写真の撮影・プリント               +0.88  ##################
  海外旅行(観光)                 +0.89  ##################
  映画館以外での映画鑑賞              +0.90  ##################
  CD・スマホ等による音楽鑑賞           +0.90  ##################
  外国語                      +0.90  ##################
  • ④ 実行結果の読み取り:最も強い負が睡眠(-0.77)、最も強い正が映画鑑賞・音楽鑑賞・外国語(+0.90)。余暇・趣味の行動者率が軒並み上位に並ぶ。これらは原論文の報告値で、図1でそのまま可視化する。
2
図1:通勤通学時間との相関一覧(報告値の可視化)

原論文の事前分析(表3)で得られた31指標の相関係数を1枚に並べる。棒の色は相関の向き、点線は|ρ|=0.5の目安。この図は再計算ではなく、原論文の報告値をそのまま可視化したものである(健康・自殺・出生率などSSDSE-D外の指標を含むため)。

通勤通学時間との相関係数一覧(報告値の可視化)
図1:通勤通学時間と各指標の相関係数ρ。報告値の可視化(再計算ではない)・原論文2016年の値(表3)。青=正の相関、赤=負の相関。
📊 この図の読み方
右へ長い棒
通勤通学時間との正の相関が強い。映画鑑賞・音楽鑑賞・外国語・読書など余暇・趣味の行動者率が右端に並ぶ(ρ≒0.9)。通勤時間が長い県ほどこれらの活動が盛ん。
左へ長い棒
負の相関。睡眠(-0.77)・平均年齢(-0.69)・生活習慣病受療者数(-0.69)がここに来る。
0.5の点線
原論文は|ρ|≧0.7を強い相関、0.5前後を弱い相関の目安として読み解いている。
位置づけ
報告値の可視化。数値は原論文の報告値で、本ページで新たに計算したものではない。
3
図2:通勤通学時間と睡眠時間(実再現)

原論文の【仮説3】は「睡眠時間は通勤時間の長さに比例して短くなるのでは」。睡眠時間は SSDSE-D に収録されているので、実データで確かめられる。まず再計算で相関を確認し、散布図にする。

やってみようSSDSE-D(2021)で通勤通学時間と睡眠時間の相関を再計算する【実再現】
  • ① このコードの目的:SSDSE-D に収録された睡眠時間(分)と通勤通学時間の相関を実際に計算し、原論文の報告値(ρ=-0.77)と並べて比べる。
  • ② 前後のつながり:ここで「調査年が違っても負の相関が再現するか」を確かめてから、図2の散布図を描く。
📝 コード
118
119
120
121
122
123
124
125
print('=== 実再現:通勤通学時間と睡眠時間(SSDSE-D 2021で再計算)===')
d['睡眠'] = pd.to_numeric(d['睡眠'], errors='coerce')
r_sleep, p_sleep = stats.pearsonr(d[COMMUTE], d['睡眠'])
print(f'  再計算 r = {r_sleep:+.3f}  (p = {p_sleep:.4g}, N={len(d)})   '
      f'← 原論文の報告値 ρ = -0.77(相関・偏相関とも)')
print(f'  睡眠時間 平均 {d["睡眠"].mean():.0f}分  '
      f'({d["睡眠"].min():.0f}{d["睡眠"].max():.0f}分)')
print('  向き・強さとも原論文と整合:通勤通学時間が長い県ほど睡眠時間は短い')
▼ 実行結果
=== 実再現:通勤通学時間と睡眠時間(SSDSE-D 2021で再計算)===
  再計算 r = -0.609  (p = 5.528e-06, N=47)   ← 原論文の報告値 ρ = -0.77(相関・偏相関とも)
  睡眠時間 平均 477分  (468〜488分)
  向き・強さとも原論文と整合:通勤通学時間が長い県ほど睡眠時間は短い
  • ④ 実行結果の読み取り:再計算 r=-0.609(p<0.001)。報告値 ρ=-0.77 よりやや弱いが、「通勤通学時間が長い県ほど睡眠が短い」という負の相関の向きは一致。差は調査年(2021年 vs 2016年)による。
通勤通学時間と睡眠時間の散布図(実再現)
図2:通勤通学時間と睡眠時間の関係(SSDSE-D 2021年調査、N=47)。実再現:再計算 r=-0.609(原論文の報告値は ρ=-0.77・相関も偏相関も同値・2016年)。
📊 この図の読み方
右肩下がり
通勤通学時間が長い県ほど、睡眠時間が短い。原論文の「通勤が長いと睡眠が削られる」という主張と同じ向き。
報告値との差
再計算 r=-0.609 は報告値 ρ=-0.77 よりやや弱いが、これは調査年の違い(2021年 vs 2016年)による。負の相関という結論はしっかり再現している。
位置づけ
実再現。原論文は仕事時間を統制した偏相関でも-0.77で、単純相関とほぼ同じだったと報告している。
4
図3:通勤通学時間と読書・音楽鑑賞(実再現)

原論文の【仮説2】は「通勤時間が減ると読書や音楽鑑賞の活動量も減るのでは」。電車内での読書やイヤホンでの音楽鑑賞を思い浮かべた仮説だ。どちらも行動者率が SSDSE-D に収録されているので、実データで確かめられる

やってみようSSDSE-D(2021)で読書・音楽鑑賞の行動者率との相関を再計算する【実再現】
  • ① このコードの目的:SSDSE-D に収録された趣味としての読書・CD等による音楽鑑賞の行動者率(%)と通勤通学時間の相関を実際に計算し、原論文の報告値(読書0.86・音楽0.91)と並べて比べる。
  • ② 前後のつながり:ここで強い正の相関が再現するかを確かめてから、図3の散布図を描く。
📝 コード
153
154
155
156
157
158
159
160
161
162
print('=== 実再現:通勤通学時間と読書・音楽鑑賞行動者率(SSDSE-D 2021で再計算)===')
d['趣味としての読書(マンガを除く)'] = pd.to_numeric(d['趣味としての読書(マンガを除く)'], errors='coerce')
d['CD・スマートフォンなどによる音楽鑑賞'] = pd.to_numeric(d['CD・スマートフォンなどによる音楽鑑賞'], errors='coerce')
read = d['趣味としての読書(マンガを除く)']
music = d['CD・スマートフォンなどによる音楽鑑賞']
r_read, p_read = stats.pearsonr(d[COMMUTE], read)
r_music, p_music = stats.pearsonr(d[COMMUTE], music)
print(f'  読書   再計算 r = {r_read:+.3f}  (p={p_read:.4g})   ← 原論文の報告値 ρ = 0.86')
print(f'  音楽   再計算 r = {r_music:+.3f}  (p={p_music:.4g})   ← 原論文の報告値 ρ = 0.91')
print('  いずれも強い正の相関で原論文と整合:通勤通学時間が長い県ほど読書・音楽鑑賞の行動者率が高い')
▼ 実行結果
=== 実再現:通勤通学時間と読書・音楽鑑賞行動者率(SSDSE-D 2021で再計算)===
  読書   再計算 r = +0.782  (p=8.857e-11)   ← 原論文の報告値 ρ = 0.86
  音楽   再計算 r = +0.819  (p=1.938e-12)   ← 原論文の報告値 ρ = 0.91
  いずれも強い正の相関で原論文と整合:通勤通学時間が長い県ほど読書・音楽鑑賞の行動者率が高い
  • ④ 実行結果の読み取り:読書 r=0.782、音楽 r=0.819(ともに p<0.001)。強い正の相関という結論を再現し、音楽が読書よりわずかに強い点も報告値(0.91>0.86)と同じ。通勤通学時間が長い県ほど読書・音楽鑑賞の行動者率が高い。
通勤通学時間と読書・音楽鑑賞行動者率の散布図(実再現)
図3:通勤通学時間と読書/音楽鑑賞の行動者率(SSDSE-D 2021年調査、N=47)。実再現:読書 r=0.782(報告値 ρ=0.86)、音楽 r=0.819(報告値 ρ=0.91)。いずれも強い正の相関を再現。
📊 この図の読み方
右肩上がり
通勤通学時間が長い県ほど、読書・音楽鑑賞の行動者率が高い。移動時間が読書・音楽の「時間」になっている可能性。
読書 vs 音楽
音楽(r=0.819)の方が読書(r=0.782)よりわずかに相関が強い。原論文でも音楽(ρ=0.91)>読書(ρ=0.86)だった。
位置づけ
実再現。ただし原論文は「これは性別の影響も大きい」と補足しており、通勤時間だけで決まるわけではない(後述)。
5
主要な発見:4つの仮説の検証

原論文は事前分析で気になった相関から4つの仮説を立てて検証した。以下の相関係数・平均値はすべて原論文の報告値(2016年)である。

【仮説1】通勤通学時間が短くなると身体の健康に悪影響が出るのでは

健康4指標相関係数 ρ平均年齢を統制した偏相関高齢化率を統制した偏相関
医療費−0.58−0.35−0.26
平均歩数+0.64+0.37+0.39
生活習慣病受療者数−0.69−0.39−0.33
健康診断有所見率−0.37−0.23−0.35

通勤通学時間が長い県ほど、医療費は安く・歩数は多く・生活習慣病受療者数は少ない。年齢の影響を偏相関で除いても相関は弱まるが残る。さらに自動車保有台数の少ない15県では相関がずっと強く(医療費 -0.91、生活習慣病 -0.92)、徒歩・自転車・鉄道での通勤が健康に良いと解釈された(→図5)。

【仮説2】通勤通学時間が減ると読書・音楽鑑賞の活動量も減るのでは

指標相関係数 ρグループ別比較(報告値)
読書行動者率+0.86通勤長い20県 38.3% > 短い20県 32.7%(全国35.4%)
音楽鑑賞行動者率+0.91通勤長い20県 49.2% > 短い20県 42.0%(全国45.3%)

どちらも強い正の相関。ただし男女別に見ると、通勤時間の長短より「性別」の影響の方が強い(読書は女性が高い:長い県の男性34.0% < 短い県の女性36.7%)。読書行動者率が高い県の女性は、仕事時間が短く自由時間を確保できている傾向もあった。

【仮説3】睡眠時間は通勤時間の長さに比例して短くなるのでは

指標相関係数 ρ仕事時間を統制した偏相関
睡眠時間−0.77−0.77
帰宅時刻+0.86+0.86
就寝時刻+0.72+0.72
出勤時刻+0.01+0.03

睡眠時間は強い負の相関(-0.77)で、仕事時間を除いても変わらない。通勤時間が長いほど帰宅・就寝が遅くなる一方、起床・出勤時刻はあまり変わらない。睡眠を確保するために帰宅後〜就寝の時間を削っている構図(→図4)。つまり通勤通学時間が減れば朝夜の自由時間は増える。

【仮説4】増えた自由時間で読書・音楽鑑賞は増えるのか

余暇の過ごし方20代60〜70代全体
自宅で趣味活動(読書など)19.9%41.2%28.9%
TV・DVD・CD などの視聴・鑑賞43.3%24.8%33.1%
余暇の過ごし方の分散312.0196.9

通勤通学時間が長い20代(平均52分)ほど、余暇に読書をする割合はむしろ低く(19.9%)、過ごし方の分散も大きい(312.0)=多様。通勤時間が減って生まれた自由時間が、必ずしも読書や音楽鑑賞に充てられるとは限らないと結論づけている。

4仮説をつないだ見立て 通勤通学時間が長い県ほど「健康が良い・読書や音楽鑑賞が盛ん」だが「睡眠は短い」。だからテレワークで通勤時間が減ると、睡眠は増える一方で、身体活動や読書・音楽鑑賞の機会は減りうる——これが原論文の核心的な見立てである。
6
図4:通勤通学時間と朝夜の生活時刻(実再現)

仮説3の後半——「通勤が長いと帰宅・就寝が遅くなるが、起床・出勤は変わらない」——を、生活時刻の相関で確かめる。時刻は SSDSE-D に収録されているので実再現できる。

やってみようSSDSE-D(2021)で通勤通学時間と朝夜の生活時刻の相関を再計算する【実再現】
  • ① このコードの目的:起床・朝食・出勤・帰宅・夕食・就寝の平均時刻("HH:MM")を分に変換し、通勤通学時間との相関を実際に計算。原論文の表15の報告値と並べる。
  • ② 前後のつながり:ここで「帰宅・就寝が遅くなる/起床・出勤は変わらない」という原論文のパターンが再現するかを確かめ、図4にする。
📝 コード
187
188
189
190
191
192
193
194
195
196
197
198
199
200
201
202
print('=== 実再現:通勤通学時間と朝夜の生活時刻の相関(SSDSE-D 2021・表15の再現)===')
def to_min(s):
    """ "HH:MM" を0時起点の分に変換 """
    h, m = str(s).split(':')
    return int(h) * 60 + int(m)

# (表示名, 原論文の報告値ρ, SSDSE-Dの列名)
TIMES = [('起床', 0.41, '起床'), ('朝食開始', 0.30, '朝食開始'), ('出勤', 0.01, '出勤'),
         ('帰宅', 0.86, '仕事からの帰宅時間'), ('夕食開始', 0.75, '夕食開始'),
         ('就寝', 0.72, '就寝')]
names, recomputed, reported = [], [], []
for name, rep, col in TIMES:
    tmin = d[col].apply(to_min)
    r, _p = stats.pearsonr(d[COMMUTE], tmin)
    names.append(name); recomputed.append(r); reported.append(rep)
    print(f'  {name:6s} 再計算 r={r:+.3f}   ← 原論文の報告値 ρ={rep:+.2f}')
▼ 実行結果
=== 実再現:通勤通学時間と朝夜の生活時刻の相関(SSDSE-D 2021・表15の再現)===
  起床     再計算 r=+0.642   ← 原論文の報告値 ρ=+0.41
  朝食開始   再計算 r=+0.506   ← 原論文の報告値 ρ=+0.30
  出勤     再計算 r=+0.375   ← 原論文の報告値 ρ=+0.01
  帰宅     再計算 r=+0.795   ← 原論文の報告値 ρ=+0.86
  夕食開始   再計算 r=+0.781   ← 原論文の報告値 ρ=+0.75
  就寝     再計算 r=+0.784   ← 原論文の報告値 ρ=+0.72
  帰宅・夕食・就寝で強い正の相関(原論文と同傾向)。就寝より帰宅の相関が強く、
  帰宅後〜就寝の時間を削って睡眠を確保している構図が再現される。
  • ④ 実行結果の読み取り:帰宅(r=0.80)・就寝(0.78)・夕食(0.78)で強い正の相関、朝食・出勤は弱め。帰宅>就寝の順序が保たれ、「帰宅後〜就寝の時間を削って睡眠を確保する」という原論文の読み筋を再現している。
通勤通学時間と朝夜の生活時刻の相関(実再現)
図4:通勤通学時間と朝夜の生活時刻の相関(SSDSE-D 2021年調査、N=47)。実再現:青=再計算、橙=原論文2016の報告値(表15)。帰宅・夕食・就寝で強い正の相関。
📊 この図の読み方
帰宅・夕食・就寝
強い正の相関(再計算でも r≒0.78〜0.80)。通勤が長い県ほど、これらの時刻が遅い。
就寝より帰宅が強い
帰宅>夕食>就寝の順に相関が下がる。原論文は「睡眠確保のため帰宅後〜就寝の時間を削っている」と読み解いた。実再現でも同じ順序。
出勤時刻
原論文では ρ=0.01(ほぼ無相関)。再計算では r=0.375 とやや出るが、朝側(起床・朝食・出勤)は夜側より一貫して相関が弱いという傾向は共通。
7
図5:健康4指標と自動車保有台数別(報告値の可視化)

仮説1の掘り下げ。通勤通学時間と健康の相関が「歩く通勤」によるものなら、自動車保有台数の少ない県(=徒歩・自転車・鉄道が多い)ほど相関が強いはず。原論文はこれを表6で確かめた。健康指標・自動車保有台数はSSDSE-D外なので、報告値を可視化する。

やってみよう健康4指標との相関(表4・表6)を報告値として持つ【報告値の可視化】
  • ① このコードの目的:健康4指標(医療費・平均歩数・生活習慣病受療者数・健康診断有所見率)の相関を、全体・自動車保有台数の多い15県・少ない15県ごとに原論文の報告値から転記する。厚労省調査・自動車保有台数はSSDSE-D外のため再計算しない
  • ② 前後のつながり:自動車保有台数の少ない県ほど相関が強い、という原論文の重要な発見を1枚のグラフにする。
📝 コード
230
231
232
233
234
235
236
237
238
239
print('=== 報告値:健康4指標との相関・自動車保有台数別(原論文2016年の報告値)===')
HEALTH = ['医療費', '平均歩数', '生活習慣病\n受療者数', '健康診断\n有所見率']
ALL_JP  = [-0.58, 0.64, -0.69, -0.37]   # 表4:全体
MANY    = [-0.59, 0.49, -0.15, -0.29]   # 表6:自動車保有台数の多い15県
FEW     = [-0.91, 0.79, -0.92, -0.48]   # 表6:自動車保有台数の少ない15県
for i, h in enumerate(HEALTH):
    hn = h.replace(chr(10), '')
    print(f'  {hn:10s}  全体 {ALL_JP[i]:+.2f} / 多い県 {MANY[i]:+.2f} / 少ない県 {FEW[i]:+.2f}')
print('  自動車保有台数の少ない県ほど相関が強い=徒歩・自転車・鉄道での通勤通学が健康に')
print('  良い影響を与えている、という原論文の解釈につながる。')
▼ 実行結果
=== 報告値:健康4指標との相関・自動車保有台数別(原論文2016年の報告値)===
  医療費         全体 -0.58 / 多い県 -0.59 / 少ない県 -0.91
  平均歩数        全体 +0.64 / 多い県 +0.49 / 少ない県 +0.79
  生活習慣病受療者数   全体 -0.69 / 多い県 -0.15 / 少ない県 -0.92
  健康診断有所見率    全体 -0.37 / 多い県 -0.29 / 少ない県 -0.48
  自動車保有台数の少ない県ほど相関が強い=徒歩・自転車・鉄道での通勤通学が健康に
  良い影響を与えている、という原論文の解釈につながる。
  • ④ 実行結果の読み取り:自動車保有の少ない15県で相関が突出して強い(医療費 -0.91、生活習慣病 -0.92)。多い県では生活習慣病が -0.15 まで弱まる。徒歩・自転車・鉄道での通勤が健康に効く、という解釈を支える報告値である(再計算ではない)。
健康4指標と通勤通学時間の相関・自動車保有台数別(報告値の可視化)
図5:通勤通学時間と健康4指標の相関。報告値の可視化(再計算ではない):灰=全体、茶=自動車保有 多い15県、緑=少ない15県。数値は原論文の報告値(表4・表6)。
図5からわかること(原論文) 自動車保有台数の少ない県ほど、通勤通学時間と健康4指標の相関が強い(医療費 -0.91、生活習慣病 -0.92)。逆に多い県では生活習慣病の相関が -0.15 まで弱まる。つまり自動車以外の交通手段(徒歩・自転車・鉄道)での通勤通学が、身体の健康に良い影響を与えていると著者は解釈した。テレワークで「歩く通勤」が減ると、この健康メリットが失われる恐れがある。

結果の解釈(原論文「5. 結果の解釈」)

通勤通学時間が減ることの「マイナス面」

通勤通学時間と身体の健康には正の相関があった。そのため通勤通学時間が減ると、身体の健康に悪影響が生じ、読書や音楽鑑賞の行動量も減る可能性がある。これらは特に自動車以外での通勤通学で顕著だった。また読書・音楽鑑賞の活動量は、通勤通学時間以上に男女の性差が大きく影響することもわかった。

通勤通学時間が減ることの「プラス面」

一方、通勤通学時間が減れば睡眠時間は長くなり、就寝前・起床後により自由時間を確保できると考えられる。ただし、この新たな自由時間で通勤時間ぶんの読書や音楽鑑賞をするとは考えにくく、時間の使い方は多様だと予想された(特に若い世代)。

提言

テレワークは多くの良い影響をもたらすが、その反面、健康や読書量などに悪影響を及ぼしうる。著者は、この悪影響を軽減するため、習慣的な軽い運動や、意識的な読書・音楽鑑賞を生活に取り入れる必要があると提言している。

外部資料の引用図について 原論文には、通勤時間の変化とテレワーク実施率のグラフ(図1・図2)、通勤時間別テレワーク実施率(図3)、偏相関の散布図(図4)、生活時刻の散布図(図5・図6)、余暇の過ごし方の帯グラフ(図7〜9)が含まれる。これらのうち内閣府・国交省・国立情報学研究所の調査に基づくテレワーク関連の図は本ページでは再現せず、グラフは原論文(PDF)を参照のこと。

まとめ

通勤通学時間は、身体の健康・読書・音楽鑑賞と正の相関、睡眠時間とは負の相関を示した。したがってテレワークで通勤通学時間が減ると、睡眠が増えるというメリットがある一方、身体活動や読書・音楽鑑賞の機会が減るというデメリットも生じうる。特に自動車以外で通勤していた層でその影響が大きい。だからこそ、意識的に運動や趣味活動を生活に取り入れることが大切だ、というのが著者の結論である。

この研究の限界(原論文) 音楽鑑賞が余暇時間の分類で「TV・DVDの視聴・鑑賞」と同じ項目に含まれてしまうため、詳細な行動量の分析には制約がある。また、都道府県単位の集計データでの相関であり、個人レベルの因果を示すものではない。
この研究から学べること 「テレワークで通勤が減る」という身近な変化を、健康・睡眠・余暇という多面から公開統計で捉える姿勢。そして相関・偏相関・グループ別比較を組み合わせ、「良い変化にも見落とされた副作用がある」と多角的に読む力。

データ・コードのダウンロード

このページの睡眠・読書・音楽鑑賞・生活時刻の相関(図2〜図4)は、以下から再現できます。

🐍 再現コード(.py) 📊 SSDSE-D-2023.csv

※ 健康4指標・自動車保有台数別・偏相関・テレワーク実施率などの相関は、原論文の報告値(2016年)を可視化したものです(図1・図5)。収録 SSDSE-D は2021年調査のため、図2〜図4の再計算値は報告値と完全には一致しません。

⚠️ よくある誤解と注意点

この研究を読むとき・まねするときに陥りやすい誤解を整理する。

誤解1:「通勤通学時間が長いほど健康、だから通勤を増やすべき」
これは都道府県単位の相関であり、通勤を増やせば健康になるという因果ではない。効いているのは通勤そのものより「歩く・自転車で移動する」身体活動だと著者は解釈している(自動車保有の少ない県で相関が強い)。通勤を増やすのではなく、日常の運動を増やすのが妥当な読み方。
誤解2:「読書と通勤の相関(ρ=0.86)は、通勤中に読書するから」
それも一因だが、原論文は男女別の分析で「通勤時間より性別の影響の方が強い」ことを示している(女性の方が読書行動者率が高い)。単純に「通勤=読書時間」と決めつけないこと。
誤解3:「相関があれば年齢は関係ない」
健康4指標と通勤時間の相関は、平均年齢/高齢化率という第3の変数と交絡している。原論文は偏相関で年齢を統制し、相関が弱まっても残ることを確かめた。交絡を無視して単純相関だけを見ないこと。
誤解4:「通勤が減れば、その時間で読書や運動が増える」
仮説4の検証がまさにこれを否定している。20代は余暇の過ごし方が多様(分散312.0)で、読書をする割合はむしろ低い。空いた時間が自動的に読書・運動に回るわけではない

📖 用語集(この記事に出てくる統計用語)

クリックすると各用語の詳しい解説ページに移動できます。

相関係数
2つの数量が「一緒に増減する強さと向き」を −1〜+1 で表す指標(Pearson)。本研究は|ρ|≧0.7を強い相関、0.5前後を弱い相関の目安とした。
散布図
2変数を点で描き、関係の形(右肩上がり/下がり)を目で確かめる図。本研究では通勤通学時間×睡眠、×読書などに使う。
SSDSE
独立行政法人統計センターが公開する教育用標準データセット。SSDSE-D は都道府県別の生活行動・生活時間データ(社会生活基本調査)。
行動者率
10歳以上人口に占める、1年間にその活動を行った人の割合。本研究では読書・音楽鑑賞などの「活動量」の代理指標として使う。
偏相関係数
第3の変数(交絡)の影響を取り除いたうえでの2変数の相関。本研究では平均年齢・高齢化率・仕事時間の影響を除いて相関を確かめた。
交絡
2変数の見かけの関係を生む背後の第3変数。ここでは「平均年齢」が通勤時間と健康の両方に関わっていた。

📐 使っている手法をわかりやすく解説

この研究で使われている手法を、手を動かす順に説明する。

全体像
通勤通学時間と多数の指標の相関を一気に求める(事前分析)→ 気になる相関で仮説を立てる → 年齢や仕事時間が交絡していないか偏相関で確かめる → 自動車保有・男女・年代でグループ分けして深掘りする。基本手法の組み合わせで多面的に迫るのが見どころ。
🔗 相関分析(Pearson)
何をする
2変数が一緒に増減するかを −1〜+1 で数値化する。都道府県(N=47)の平均値どうしで計算する。
読み方
正なら同方向、負なら逆方向。本研究は|ρ|≧0.7を強い相関、0.5前後を弱い相関の目安とした。
注意(統計センター資料より)
相関は因果ではない。地域集計での相関を個人に当てはめる「生態学的誤謬」に注意。散布図での目視確認とセットで使う。
🧩 偏相関分析
何をする
交絡変数(ここでは平均年齢・高齢化率・仕事時間)の影響を統計的に取り除いてから相関を測る。
なぜ必要
健康指標は年齢と強く関係するため。年齢を除いても通勤時間との相関が残るかを確かめる。
効果
健康4指標の相関は、年齢を除くと弱まる(例:生活習慣病 -0.69→-0.39)が、方向は保たれた。睡眠時間は仕事時間を除いても -0.77 のままだった。
📊 グループ別比較
何をする
都道府県を条件で2群(自動車保有 多い15県/少ない15県、通勤 長い20県/短い20県)や年代(20代/60〜70代)に分け、指標の平均や相関を比べる。
なぜ必要
全体の相関だけでは見えない「どんな県で相関が強いか」を切り分けるため。
効果
自動車保有の少ない県で健康との相関が強いことがわかり、「歩く通勤が効いている」という解釈が得られた。

🚀 発展の可能性(結果 X → 新仮説 Y → 課題 Z)

この研究の「相関は見つけたが個人の因果は不明」という結論は、次の研究の出発点になる。

発展1:通勤手段を直接データに入れる
結果X
自動車保有の少ない県で健康との相関が強く、「歩く通勤」が効いていそうだ。
新仮説Y
効いているのは通勤時間そのものではなく「徒歩・自転車・鉄道での移動量」ではないか。
課題Z
通勤手段別のデータ(国勢調査の従業地・通勤手段)を加え、移動量を統制した偏相関・重回帰で検証する。
発展2:テレワーク前後で追跡する
結果X
横断(1時点)の都道府県相関にとどまり、テレワークで実際に何が変わったかは見ていない。
新仮説Y
通勤時間が減った人ほど、睡眠が増え・身体活動が減るという変化が個人内でも起きるのでは。
課題Z
コロナ前後のパネルデータ(同じ人を追跡)で、通勤時間の変化と健康・睡眠・余暇の変化を対応づける。

🎯 自分でやってみよう(5つのチャレンジ)

再現コードを少し変えるだけで試せる課題を、易しい順に用意した。

★☆☆☆☆ 難易度1
別の趣味の相関を再計算する
図3の read を「外国語」や「映画館以外での映画鑑賞」の列に差し替えて、通勤通学時間との相関がどうなるか確かめよう(表3では ρ=0.90)。
★★☆☆☆ 難易度2
通勤の長い県・短い県を書き出す
d.nlargest(20, COMMUTE)d.nsmallest(20, COMMUTE) で長い20県・短い20県を出し、読書行動者率の平均を比べよう(報告値:38.3% vs 32.7%)。
★★★☆☆ 難易度3
男女で相関を比べる
読み込み時のフィルタ 総数 に変えて、通勤通学時間と読書の相関が男女で違うか確かめよう(報告値:男0.86・女0.76)。
★★★★☆ 難易度4
生活時刻をすべて相関にかける
図4の TIMES に「移動(通勤・通学を除く)」などを加えて、朝側・夜側で相関の強さがどう分かれるかを観察しよう。
★★★★★ 難易度5
仕事時間を統制した偏相関を実装する
SSDSE-D の「仕事」(分)を使い、pingouin.partial_corr などで「通勤通学時間×睡眠時間(仕事時間を統制)」を計算し、単純相関からどれだけ変わるか(報告値では-0.77で不変)確かめよう。
ヒント:偏相関は「2変数それぞれを仕事時間で回帰した残差どうしの相関」。まず睡眠で試す。

💼 この手法は実社会でこう使われている

「働き方や生活時間の変化が、健康・余暇にどう波及するかを公開統計で捉える」発想は、現場でも広く使われている。

🏢
働き方改革・労務
通勤時間・在宅勤務比率と、睡眠・健康・離職の関係を分析し、テレワーク制度の設計や健康経営施策に活かす。
🚉
都市・交通政策
通勤手段(徒歩・自転車・鉄道・自動車)と健康・環境の関係を分析し、歩ける街づくりや公共交通の整備を検討する。
🏥
公衆衛生・EBPM
身体活動量と生活習慣病・医療費の関係を地域データで把握し、運動促進や健康づくり施策の優先順位を決める。

🤔 よくある質問(読者からの想定Q&A)

この研究を読んで浮かびやすい疑問に答える。

Q. 通勤が長いほど健康が良いなら、通勤を増やした方がいいの?
A. いいえ。これは都道府県単位の相関で、効いているのは通勤そのものより「歩く・自転車で移動する」身体活動だと考えられます(自動車保有の少ない県で相関が強い)。テレワークで減った移動量を、日常の運動で補うのが妥当な読み方です。
Q. このページの図は原論文と同じ数値ですか?
A. 一部だけ実再現です。睡眠(図2)・読書/音楽鑑賞(図3)・生活時刻(図4)は SSDSE-D から実際に計算した実データ(ただし2021年調査)。相関一覧(図1)と健康4指標・自動車保有台数別(図5)は、厚労省調査などSSDSE-D外のデータに基づくため原論文の報告値(2016年)を可視化したものです。図注に二重に明記しています。
Q. 再計算した睡眠の相関(-0.609)が報告値(-0.77)と違うのは失敗ですか?
A. 失敗ではありません。収録データが2021年調査、原論文が2016年調査という調査年の違いによるものです。値は少し違っても「負の相関(通勤が長い県ほど睡眠が短い)」という結論はしっかり再現できています。
Q. 読書・音楽鑑賞の相関が強いのは、通勤中にやっているからですか?
A. それも一因ですが、原論文は男女別の分析で「通勤時間より性別の影響の方が強い」ことを示しています(女性の方が読書行動者率が高い)。通勤=読書時間、と単純に決めつけない慎重さが必要です。

✅ 理解度チェック(4問)

この論文を理解できたか、クリックで確認しましょう。間違えても解説が出ます。

🐍 ブラウザで動かす — インストール不要でこの論文の分析を再現する

このページの分析は、この画面の中でそのまま実行できます。 Python をインストールする必要も、CSV をダウンロードする必要もありません。 下のセルの 「▶ ブラウザで実行」 を上から順に押すか、 「▶ 最初から全部実行」 で一気に流してください。 表示されるのは、本文の図表とまったく同じ計算の結果です (動かしているのは再現スクリプト code/2021_H5_4_shorei.py そのもの)。

コードは書き換えられます。「✏️ 書き換える」で数字や変数を変えて ▶ を押すと、 結果がどう変わるかをその場で確かめられます(元に戻すボタンつき)。 ページを開いた時点で裏で実行環境の準備が始まっているので、待ち時間はほとんどありません。 初回だけ実行環境の取得にインターネット接続が必要です。