🎯 この記事を読むと何ができるようになるか
研究の核心: 「過疎地域の現状分析と発展に重要な視点」(2019年度 統計数理賞・高校生の部)の問題意識と、法律の要件どおりに1741市区町村を自力で分類する という地道なデータ加工の価値
分析手法: ヒストグラム を2群(過疎地域/過疎地域外)で並べて分布の形・位置・裾 を比較する方法
分析手法: 四分位範囲(IQR) を使った外れ値 検出(Q1−1.5×IQR/Q3+1.5×IQR)を分析の前処理として使う方法
分析手法: 標準偏差 ÷平均 =変動係数 で、平均が違う2群のばらつきを公平に比べる方法
結果の読み方: 「件数」でなく「構成比率(割合) 」で比べる理由——群のサイズ(513 vs 1228)が違うときの鉄則
応用: 同じ分類→分布比較→相関という流れを、別の地域区分(豪雪地帯・離島など)や別の変数に適用する発想
📥 データの準備(再現コードを動かす前に)
このページの実データ再現(式3・式4・式7・式8の全市区町村分布=図5、IQR外れ値検出)を自分で動かすには、以下の手順でデータを準備してください。コードの編集は不要です。
1
データをダウンロードする
独立行政法人統計センターの
SSDSE (教育用標準データセット)配布ページから、以下のファイルをダウンロードします。
SSDSE-A-2025.csv ←
SSDSE-A (市区町村データ)
📥 直接DL
⬇ SSDSEダウンロードページを開く
2
ファイルを所定のフォルダに配置する
ダウンロードした
CSV を、プロジェクトの
data/raw/ フォルダに入れます。
2026 統計・データ解析コンペ/
├── code/
│ └── 2019_H3_suri.py ← 実行するスクリプト
└── data/
└── raw/
SSDSE-A-2025.csv ← ここに置く
3
スクリプトをそのまま実行する
ターミナルでプロジェクトルートに移動し、以下を実行します。
python3 code/2019_H3_suri.py
図は
html/figures/ に自動保存されます。
※ 原論文の核心である「過疎地域/過疎地域外」の分類には、e-Stat の 1980・1985・2005・2010年国勢調査人口と財政力指数(2006〜2008・2010〜2012年度)が必要で、これらは現行の SSDSE には収録されていません(1995年の年齢別人口・児童福祉費・老人福祉費も未収録)。そのため、2群を比較する図1〜図4は原論文の報告値の可視化(再計算ではない) です。SSDSE-A-2025 で計算できる指標(式3・式4・式7・式8)のみ、図5で実データ再現しています(詳細は「データと変数」参照)。
昭和30年代以降の高度経済成長に伴い、農山漁村地域から都市地域へ若者を中心とした大きな人口移動が起こった。
残された農山漁村地域では住民の減少により、買い物・医療・教育といった地域社会の基礎的な生活条件の確保にも支障をきたす ——これがいわゆる過疎問題 である。
原論文は、SSDSE (教育用標準データセット)と e-Stat の市区町村データを用いて過疎地域の現状を分析し、過疎地域が発展するために重要な視点を発見すること を目標に掲げた。
「過疎地域は衰退している」という印象論で終わらせず、1741市区町村を法律の要件どおりに「過疎地域」と「過疎地域外」に分類し、両群の分布を並べて比べる ——という愚直なアプローチがこの論文の持ち味である。
人口・財源・産業という3つの視点から違いを積み上げ、最後に「過疎地域の強みは何か」という逆転の問いに答えを出す。
論文審査会コメント(原文より)
「過疎地域と過疎地域外とを分類して、変数の加工や外れ値の扱いなどを丁寧に行っており、素朴な分析ながら手がかかっていることが明らかであり、好感が持てる論文である。過疎地域の特性をデータに基づき明らかにし、その対策についても高校生なりの提言をしており高く評価できる。ヒストグラムの並べ方などについては分布の差異がよく分かるように並べるとなお良い。」
分析の流れ
1741市区町村を 過疎地域(513)と 過疎地域外(1228)に分類
→
変数を加工 (変化率・割合・ 1人当たり額)
→
IQR法で 外れ値を検出・除外
→
ヒストグラムで 分布を比較+ 相関分析
→
解釈:第1次産業の 活性化が発展の鍵
SSDSE-A(市区町村データ)
ヒストグラム
相関分析
IQR外れ値検出
構成比率
原論文の主要な報告値(いずれも原論文の報告値)
15歳未満人口の減少率は過疎地域の方が約10%高い (図1)
65歳以上人口の変化率の変動係数:過疎地域 0.29 /過疎地域外 0.40 (過疎地域外の方がばらつきが大きい)
従業者に占める第1次産業従業者の割合の平均:過疎地域は過疎地域外の約4.4倍 (4.0% vs 0.9%)
第1次産業事業所の割合が3.0%より大きい市区町村:過疎地域の37% vs 過疎地域外の0.3%
データと変数:SSDSE+e-Stat(と本ページの再現範囲)
SSDSE から使った項目(原論文 表2)
原論文は SSDSE-2019A (市区町村データ・1741市区町村)から17項目を使用した。項目符号はe-Stat 「社会・人口統計体系」の統計項目コードである。
項目符号 項目名 年度 項目符号 項目名 年度
A1101 総人口 2015 A1301 15歳未満人口 2015
A1303 65歳以上人口 2015 C2107 事業所数 2014
C2110 第1次産業事業所数 2014 C2111 第2次産業事業所数 2014
C2112 第3次産業事業所数 2014 C2207 従業者数 2014
C2210 第1次産業従業者数 2014 C2211 第2次産業従業者数 2014
C2212 第3次産業従業者数 2014 D3203 歳出決算総額(市町村財政) 2016
D320303 民生費(市町村財政) 2016 D320310 教育費(市町村財政) 2016
E2501 小学校児童数 2017 E3501 中学校生徒数 2017
E4501 高等学校生徒数 2017
e-Stat から追加で集めた項目(原論文 表3)
過疎地域の分類(次章)と一部の分析には SSDSE に無いデータが必要で、原論文は e-Stat の市区町村データから自分で集めて接合した。「足りない変数は公的統計から自分で集めて足す」 のは受賞論文に共通する良い実践である。
項目符号 項目名 年度 出典
A1101 総人口 1980・1985・2005・2010 国勢調査、人口推計
A1301 15歳未満人口 1995 国勢調査、人口推計
A1303 65歳以上人口 1995 国勢調査、人口推計
D2201 財政力指数(市町村財政) 2006〜2008、2010〜2012 地方財政状況調査
D3203032 老人福祉費(市町村財政) 2016 地方財政状況調査
D3203033 児童福祉費(市町村財政) 2016 地方財政状況調査
本ページの再現範囲(再現可能性の整理)
現行の SSDSE-A-2025 には、総人口・15歳未満/65歳以上人口(2020年)、産業別の事業所数・従業者数(2021年)、歳出決算総額・民生費・教育費(2021年度)、小中高の児童生徒数(2023年)が収録されている。
一方、
過疎分類に必要な過去の国勢調査人口(1980〜2010年)と財政力指数、1995年の年齢別人口、児童福祉費・老人福祉費は未収録 である。したがって——
図1〜図4 (原論文 図1〜図8、過疎地域/過疎地域外の比較)=原論文の報告値の可視化 (再計算ではない)
図5 (式3・式4・式7・式8 の全市区町村分布)= SSDSE-A-2025 の実データによる再現 (ただし過疎/過疎外の分類なし・年次も原論文と異なる)
原論文 §2.2 の IQR外れ値検出 =実データに適用して再現(「やってみよう」参照)
原論文が定義した8つの指標(式1〜式8)
式 指標 計算方法
式1 15歳未満の人口の変化率(%) (2015年の15歳未満人口 − 1995年の15歳未満人口)÷ 1995年の15歳未満人口 × 100
式2 65歳以上の人口の変化率(%) (2015年の65歳以上人口 − 1995年の65歳以上人口)÷ 1995年の65歳以上人口 × 100
式3 歳出に占める教育費の割合(%) 教育費 ÷ 歳出決算総額 × 100
式4 学生1人当たりの教育費額(千円) 教育費 ÷(小学校児童数+中学校生徒数+高等学校生徒数)
式5 民生費に占める児童福祉費の割合(%) 児童福祉費 ÷ 民生費 × 100
式6 民生費に占める老人福祉費の割合(%) 老人福祉費 ÷ 民生費 × 100
式7 事業所に占める第1・2・3次産業事業所の割合(%) 第1・2・3次産業事業所数 ÷ 事業所数 × 100
式8 従業者に占める第1・2・3次産業従業者の割合(%) 第1・2・3次産業従業者数 ÷ 従業者数 × 100
実数でなく「変化率」「割合」「1人当たり」に加工する理由
市区町村は人口数百人の村から数百万人の市まで規模が桁違いに違う。教育費の額 そのものを比べても「大きい市は何でも大きい」だけで意味がない。
原論文はすべての比較を変化率・構成比率・1人当たり額 に変換してから行っている。規模の影響を取り除くこの加工が、市区町村比較の出発点である。
原論文は過疎地域自立促進特別措置法 (平成12年法律第15号)の指定要件をもとに、次の条件1・条件2のいずれか に該当する市区町村を「過疎地域」、いずれにも該当しない市区町村を「過疎地域外」とした。分類対象は SSDSE-2019A に含まれる1741市区町村である。
条件1: (1980年人口 − 2005年人口)÷ 1980年人口 ≧ 0.17
かつ 財政力指数(2006〜2008年度の平均)≦ 0.56
条件2: (1985年人口 − 2010年人口)÷ 1985年人口 ≧ 0.19
かつ 財政力指数(2010〜2012年度の平均)≦ 0.49
分類の結果:過疎地域 513、過疎地域外 1228(原論文の報告値)
「25年間で人口が約2割減り、かつ財政力が弱い」市区町村が全体の約3割を占める。法律の条文を読み解き、e-Stat から5時点の人口と6年度分の財政力指数を集めてきて1741市区町村を機械的に判定する——この地道な作業がこの論文の土台である。
都道府県別の過疎地域と過疎地域外の数(原論文 表4)
都道府県 過疎 過疎外 都道府県 過疎 過疎外 都道府県 過疎 過疎外
北海道 128 51 青森県 20 20 岩手県 17 16
宮城県 5 30 秋田県 15 10 山形県 15 20
福島県 17 42 茨城県 1 43 栃木県 1 24
群馬県 6 29 埼玉県 1 62 千葉県 3 51
東京都 4 58 神奈川県 0 33 新潟県 8 22
富山県 1 14 石川県 5 14 福井県 1 16
山梨県 6 21 長野県 23 54 岐阜県 6 36
静岡県 3 32 愛知県 3 51 三重県 7 22
滋賀県 0 19 京都府 4 22 大阪府 1 42
兵庫県 5 36 奈良県 13 26 和歌山県 14 16
鳥取県 8 11 島根県 13 6 岡山県 9 18
広島県 8 15 山口県 6 13 徳島県 11 13
香川県 5 12 愛媛県 10 10 高知県 23 11
福岡県 11 49 佐賀県 2 18 長崎県 9 12
熊本県 13 32 大分県 9 9 宮崎県 12 14
鹿児島県 27 16 沖縄県 4 37 合計 513 1228
※ 原論文 表4 の報告値。赤字は過疎地域数が過疎地域外数を大きく上回る道県(北海道128、鹿児島27、高知23、島根13など)。神奈川県・滋賀県は過疎地域が0。
外れ値の検出(原論文 §2.2)
データの関係性を正確に捉えるために、原論文は(過疎地域の分類を除く)すべての分析の前に、過疎地域・過疎地域外それぞれのデータで別々に 外れ値 を検出し、外れ値を除いたデータで分析している。方法は箱ひげ図 でおなじみの1.5×IQR基準 である。
① データ x の第1四分位数 (Q1)、第3四分位数(Q3)、四分位範囲(IQR = Q3 − Q1)を求める
② xi < Q1 − 1.5×IQR または Q3 + 1.5×IQR < xi に該当するデータ xi を外れ値とする
※ 0 で除する計算の場合は、計算結果を 0 とした後で外れ値の検出を行う
各図の n が少しずつ違うのはこのため
外れ値検出を変数ごとに 行うので、除外される市区町村が変数ごとに異なり、図によって n(492、499、468、…)が変わる。相関係数の計算では「両方の変数が外れ値になっていない 市区町村」だけを使う——と原論文は明記しており、n を毎回書くこの丁寧さは見習いたい。
相関の強さの基準(原論文 表1)
相関係数 r の範囲 判定 相関係数 r の範囲 判定
0.7 < r ≦ 1 強い正の相関 −0.4 < r ≦ −0.2 弱い負の相関
0.4 < r ≦ 0.7 中程度の正の相関 −0.7 < r ≦ −0.4 中程度の負の相関
0.2 < r ≦ 0.4 弱い正の相関 −1 ≦ r ≦ −0.7 強い負の相関
−0.2 < r ≦ 0.2 相関なし
※ 原論文が文献(小野寺・菱村 2006)を引いて明示した基準。「弱い」「強い」という言葉を使う前に基準を宣言しておくのは良い作法。
📝 コード
📋 コピー 1
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11
12 import numpy as np
import pandas as pd
# SSDSE-A は 1行目=項目符号、2行目=年度、3行目=項目名、4行目以降=データ
raw = pd.read_csv('data/raw/SSDSE-A-2025.csv', encoding='cp932')
raw = raw.iloc[2:].copy() # 年度・項目名の行を除いてデータ本体だけにする
raw = raw.rename(columns={'SSDSE-A-2025': '地域コード',
'Prefecture': '都道府県', 'Municipality': '市区町村'})
for c in ['D3203','D320310','E2501','E3501','E4501',
'C2108','C210832','C210833','C2208','C220832','C220833']:
raw[c] = pd.to_numeric(raw[c], errors='coerce')
print(f"SSDSE-A-2025 市区町村数: {len(raw)}")
▼ 実行結果
💡 解説
SSDSE-A(市区町村データ)は冒頭3行がヘッダー(項目符号・年度・項目名)です。iloc[2:] で年度と項目名の行を落とし、列名には項目符号(D3203=歳出決算総額など)をそのまま使います。 pd.to_numeric(errors='coerce') — 秘匿値などの非数値を NaN に変換します。市区町村数は 1741 。原論文が SSDSE-2019A で分類した数と同じで、SSDSE-A は毎年この全市区町村構成で更新されています。
💡 Python TIPS 項目符号(D320310)で列を扱うと、SSDSE の版が変わって日本語項目名が微修正されても同じコードが動きます。e-Stat の統計項目コードと共通なので出典も辿りやすい。
📝 コード
📋 コピー df = pd.DataFrame()
df['教育費割合'] = raw['D320310'] / raw['D3203'] * 100 # 式3(%)
students = raw['E2501'] + raw['E3501'] + raw['E4501']
df['教育費額'] = raw['D320310'] / students # 式4(千円/人)
df['事業所1次割合'] = (raw['C210832'] + raw['C210833']) / raw['C2108'] * 100 # 式7
df['従業者1次割合'] = (raw['C220832'] + raw['C220833']) / raw['C2208'] * 100 # 式8
# 原論文 §2.2 の規則:0で除する計算は結果を0とする
df = df.replace([np.inf, -np.inf], 0)
▼ 実行結果
このステップは print はしません。4つの指標が計算されました。次のステップで外れ値検出にかけます。
💡 解説
現行 SSDSE-A には「第1次産業事業所数」の集約列がないため、農業・林業(C210832)+漁業(C210833) を足して第1次産業として扱います(従業者も同様)。日本標準産業分類のA・B分類=第1次産業なので定義は原論文と同じです。 教育費(D320310)の単位は千円 なので、児童生徒数で割るとそのまま「千円/人」になります(原論文 図4 と同じ単位)。 高校が無い町村では E4501 が 0 ですが、分母は小中高の合計なので通常は 0 になりません。0除算が起きた場合に備えて、原論文の「計算結果を0とする」規則をそのまま実装しています。
💡 Python TIPS pandas の列同士の四則演算は要素ごと(element-wise) 。1741市区町村分の割合計算も1行で書けます。
📝 コード
📋 コピー 21
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31 def iqr_filter(s):
"""原論文 §2.2:Q1−1.5×IQR 未満・Q3+1.5×IQR 超を外れ値として除外"""
s = s.dropna()
q1, q3 = s.quantile(0.25), s.quantile(0.75)
iqr = q3 - q1
kept = s[(s >= q1 - 1.5*iqr) & (s <= q3 + 1.5*iqr)]
return kept, len(s) - len(kept)
for col in ['教育費割合', '教育費額', '事業所1次割合', '従業者1次割合']:
k, n_out = iqr_filter(df[col])
print(f"{col}: 外れ値 {n_out} 件を除外, n={len(k)}, 平均={k.mean():.2f}")
▼ 実行結果
教育費割合: 外れ値 77 件を除外, n=1664, 平均=9.40
教育費額: 外れ値 149 件を除外, n=1592, 平均=802.16
事業所1次割合: 外れ値 135 件を除外, n=1606, 平均=1.93
従業者1次割合: 外れ値 134 件を除外, n=1607, 平均=2.47
💡 解説
原論文と同じ 1.5×IQR 基準で、実データでも各変数 4〜9% ほどの市区町村が外れ値として検出されます。原論文の各図の n(例:式3で過疎468+過疎外1076=1544/1741)と同じくらいの割合です。 歳出に占める教育費の割合の平均は 9.40% (2021年度・全市区町村)。原論文(2016年度)で過疎地域の最頻階級が「8%より大きく12%以下」だったのと整合的な水準です。 これは全市区町村をまとめた分布 である点に注意。過疎/過疎外に分けた比較は、分類に必要な過去データが SSDSE に無いため再計算できません(原論文の報告値=図1〜図4を参照)。
💡 Python TIPS s.quantile(0.25) と s.quantile(0.75) で四分位数が一発で出ます。箱ひげ図(plt.boxplot)のひげの外に出る点と同じ基準です。
過疎地域では過疎地域外と比べて少子高齢化が進みやすいのか。原論文は1995年→2015年の20年間について、
15歳未満の人口の変化率(式1) と65歳以上の人口の変化率(式2) を市区町村ごとに計算し、2群のヒストグラムを比較した。
📖 図1の読み方
何の図? 1995年→2015年の人口変化率のヒストグラム。上段が15歳未満(子ども)、下段が65歳以上(高齢者)。左が過疎地域、右が過疎地域外。
どこを見る? 上段:最頻階級は過疎地域が「−40%〜−30%」(49.0%)、過疎地域外が「−30%〜−20%」(42.1%)。分布の形はほぼ同じで、位置が10%ずれている 。下段:どちらも「40%〜80%」に集中(過疎74.4%、過疎外55.3%)だが、過疎地域外は右の裾が180%まで伸びている。
次に何を疑う? 「過疎地域の方が高齢化率の伸び も大きいはず」という直感は正しいか? 下段を見ると、むしろ大きく増えた市区町村は過疎地域外に多い 。ばらつきを数字で比べたくなる→変動係数へ。
発見1(原論文の報告値):15歳未満の減少率は過疎地域の方が約10%高い
過疎地域の分布を正の方向に10%平行移動すると過疎地域外の分布とほぼ一致する。つまり子どもの減少は全国共通の現象だが、過疎地域では一段深い 。
発見2(原論文の報告値):65歳以上の変化率は「過疎地域外」の方がばらつく
標準偏差 を平均 で割った変動係数 は、過疎地域 0.29 、過疎地域外 0.40 。
高齢者人口が2倍以上(変化率100%超)に増えた市区町村は過疎地域外に多い。原論文はこれを「過疎地域で生まれ育った人々が職や住みよい環境を求めて都市部に移住し、移住先で定住して高齢化した」ためではないかと解釈している。
15歳未満×65歳以上の変化率の相関(原論文の報告値)
グループ n(両変数とも外れ値でない市区町村) 相関係数 判定(表1の基準)
過疎地域 481 −0.31 弱い負の相関
過疎地域外 1132 0.07 相関なし
過疎地域では「子どもが大きく減った市区町村ほど高齢者の増加率が高い」という弱い負の相関 が見られたが、過疎地域外では相関がなかった。
少子化と高齢化の連動は、過疎地域でこそ現れる構造だと読める。
教育対策:歳出に占める教育費の割合と学生1人当たりの教育費額(原論文 図3・図4)
📖 図2の読み方
何の図? 市町村財政(2016年度)のうち教育費の比重(上段)と、児童生徒1人に換算した教育費(下段・千円)の分布。
どこを見る? 上段:どちらも「4%〜20%」に集中するが、過疎地域は「8%〜12%」の階級が48.3%と突出(過疎地域外17.0%の約2.8倍 )で、分布全体が低い側に寄る。下段:全体の75.1%が入る範囲は、過疎地域が40万〜160万円 、過疎地域外が40万〜240万円 。過疎地域外には400万円超が14.6%あり、最大値は726万円 。
次に何を疑う? 「なぜ過疎地域の方が学生1人当たり教育費まで 少ないのか」。児童生徒が少なければ1人当たりは増えそうなのに逆——分母(学生数)だけでなく分子(教育費の絶対額・学校統廃合・財政力)の構造を考えたくなる。
発見3(原論文の報告値):過疎地域は教育費の割合も1人当たり額も少ない
原論文はこの差について「教育費額の差は学力差を生みかねないので、国の税金投入などでその差を是正すべきだ」と述べている。
児童・高齢者対策:民生費に占める児童福祉費・老人福祉費の割合(原論文 図5・図6)
📖 図3の読み方
何の図? 福祉予算(民生費)の中身の比率。上段=子ども向け(児童福祉費)、下段=高齢者向け(老人福祉費)。
どこを見る? 最頻階級で比べると、児童福祉費の割合は過疎地域「25%〜30%」<過疎地域外「35%〜40%」。老人福祉費の割合は過疎地域「25%〜30%」>過疎地域外「20%〜25%」。過疎地域は児童向けが低く高齢者向けが高い 。過疎地域の老人福祉費は右裾が55%まで伸びる(民生費の半分以上が高齢者向けの市区町村がある)。
次に何を疑う? これは「過疎地域が子どもに冷たい」のか? 原論文は結論部で人口構成(65歳以上割合:過疎39.1% vs 過疎外28.6%)を確認し、人口構成の違いによるもの と解釈している。割合の差を見たら分母・構成の違いを疑う、の好例。
児童福祉費の割合と老人福祉費の割合の相関係数(両変数とも外れ値でない市区町村で計算・原論文の報告値 )は、過疎地域(n=485)で−0.37 、過疎地域外(n=1181)で−0.36 。
どちらも弱い負の相関で、両群に大きな差はなかった。同じ民生費の中の構成比率どうしなので、片方が増えれば他方が減る方向の関係が出るのは自然である。
産業別構成比率の平均(原論文 表5)
事業所(式7)と従業者(式8)の視点から、第1・2・3次産業の構成比率の平均を2群で比較した。すべて原論文の報告値 である。
構成比率の平均(%) 過疎地域 過疎地域外 差の読み方
事業所 (式7) 第1次産業 2.9(n=484) 0.8(n=1140) 過疎地域が約3.6倍
第2次産業 19.2(n=490) 21.0(n=1260) 過疎地域外が1.8%高い
第3次産業 77.0(n=495) 77.8(n=1207) ほとんど差なし
従業者 (式8) 第1次産業 4.0(n=483) 0.9(n=1134) 過疎地域が約4.4倍
第2次産業 25.3(n=507) 27.5(n=1218) 過疎地域外が2.2%高い
第3次産業 69.8(n=508) 70.9(n=1218) ほとんど差なし
発見4(原論文の報告値):差が出るのは第1次産業だけ
第2次・第3次産業の構成比率は2群でほとんど変わらない。過疎地域の産業構成を特徴づけているのは第1次産業 (農業・林業・漁業)である。
📖 図4の読み方
何の図? 第1次産業が地域経済に占める比重の分布。上段=事業所ベース、下段=働く人ベース。
どこを見る? 上段:過疎地域の範囲は0%〜10%、過疎地域外は0%〜3.5%と範囲そのものが3倍近く違う 。第1次産業事業所の割合が3.0%より大きい市区町村は、過疎地域では37% 、過疎地域外ではわずか0.3% 。下段:過疎地域外は「0%〜1%」に60.3%が集中。従業者割合が2%を超えるのは過疎地域の69.3% vs 過疎地域外の14.5%。過疎地域外の最大階級(3%〜4%)より大きい値をとる過疎地域の市区町村が39.5% ある。
次に何を疑う? 「では日本の第1次産業は誰が担っているのか」——分布の右側がほぼ過疎地域だけで構成されている事実から、過疎地域=日本の第1次産業の担い手 という本研究の核心の解釈が導かれる。
SSDSE-A-2025 実データによる再現(図5)
式3・式4・式7・式8 は現行の SSDSE-A-2025 で計算できる。原論文の IQR 外れ値検出(§2.2)を適用した上で、全1741市区町村 の分布を実データで描いたのが図5である
(過疎/過疎外の分類は SSDSE 未収録の歴史データが必要なため行っていない。年次も原論文の2014〜2017年に対し2021〜2023年)。
📖 図5の読み方(原論文の図との対応)
何の図? 原論文の図3・図4・図7・図8 と同じ4指標を、最新データ・全市区町村(過疎/過疎外を混ぜたまま)で描いた分布。
どこを見る? 第1次産業の割合(下段2枚)は右裾の長い分布 で、原論文の「過疎地域外の形」(0〜1%に大集中)と「過疎地域の形」(右に広く伸びる)を重ねた形になっている。事業所1次割合が3.0%超の市区町村は全体の 29.8% (2021年)——原論文では過疎37%/過疎外0.3%だったので、この29.8%の大半は過疎地域由来と推測できる。
次に何を疑う? 2群に分ければ原論文と同じ「二つの山」が見えるはず。総務省公表の過疎地域指定市町村一覧と結合して分類を再現するのが次の一歩(「自分でやってみよう」CH4)。
📝 コード
📋 コピー share3 = (df['事業所1次割合'].dropna() > 3.0).mean() * 100
print(f"第1次産業事業所の割合が3.0%より大きい市区町村: {share3:.1f}%")
▼ 実行結果
第1次産業事業所の割合が3.0%より大きい市区町村: 29.8%
💡 解説
2021年経済センサスベースの実データでは、全市区町村の 29.8% で第1次産業事業所の割合が3.0%を超えます。 原論文(2014年・過疎/過疎外に分類)の報告値は過疎地域37%/過疎地域外0.3% 。全体の3割という水準は「3%超のほぼ全てが過疎地域」という原論文の構図と整合的です(過疎地域は全市区町村の約3割)。 比較の限界にも注意:年次(2014 vs 2021)と産業分類の扱い(原論文は SSDSE-2019A の第1次産業集約列、本再現は農業・林業+漁業の合算)が異なるため、厳密な数値の一致は期待できません。
💡 Python TIPS (条件).mean() — True/False は 1/0 として扱われるので、平均を取るだけで「条件を満たす割合」が出ます。
まとめと提言
主要な発見(いずれも原論文の報告値・解釈)
人口: 15歳未満の人口の減少率は過疎地域の方が約10%高い。65歳以上の増加率は、むしろ過疎地域外の方が大きい値をとる市区町村がある(変動係数 0.40 vs 0.29)。
原論文は前者を「子育てしやすい環境(商店・子育て世代の仕事)が整っていない」こと、後者を「過疎地域から都市部へ移住した人々の定住・高齢化」によるものと解釈した。
財源: 過疎地域は児童・教育など若者向けの財源利用が少なく、高齢者向けが多い。ただし2015年の人口構成(15歳未満:過疎9.9% vs 過疎外12.6%/65歳以上:過疎39.1% vs 過疎外28.6%)を確認すると、この差は人口構成の違いによるもの といえる。
一方、学生1人当たりの教育費額が過疎地域で少ない点は「学力差を生みかねないので、国の税金投入などで是正すべきだ」と提言。
産業: 従業者に占める第1次産業従業者の割合の平均は過疎地域が約4.4倍。過疎地域外の最大階級より大きい値をとる過疎地域の市区町村が39.5%あり、過疎地域は日本の第1次産業の中心を担っている 。
過疎地域の衰退が進めば、農作物・海産物・木材の供給不足による価格高騰や、輸入依存の拡大による食料自給率の低下が危惧される。
原論文の2つの提案
過疎地域の第1次産業を資金面と人材面で活性化させるために——
国 が過疎地域の第1次産業に対して税金を積極的に投入すること
過疎地域の地方自治体 が、第1次産業に従事したい人に資金などの援助を行うこと
第1次産業の活性化は、不安定な国際情勢の中で輸入依存を減らすことにもつながる、と原論文は結んでいる。
📝 教材補足:この研究の限界と発展
(1) 本研究の比較は記述統計 (分布・平均・相関)であり、差が偶然でないかの検定(Mann-Whitney U 検定など)や、要因の統制(回帰分析)までは行っていない。
(2) 過疎地域の指定はその後、過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法 (令和3年施行)に引き継がれ、要件も更新されている。最新の指定リストで再分類すると結果が変わる可能性がある。
(3) 「過疎地域は第1次産業に貢献」は市区町村単位の構成比率の話であり、生産量 ・生産額 ベースの寄与とは区別が必要。これらはいずれも原論文の価値を損なうものではなく、次の研究の出発点である。
⚠️ よくある誤解と注意点
この論文のような「グループ分け+分布の比較」で初心者がやりがちな勘違い をまとめます。本文を読む前にも、読んだ後にも、目を通してみてください。
❌ 「件数で比べればよい」ではない——群のサイズが違うなら割合で
過疎地域は513、過疎地域外は1228と群のサイズが2倍以上違う ため、ヒストグラムの縦軸を「市区町村数」にすると過疎地域外の棒が常に高く見えてしまいます。 原論文はすべての図で縦軸を「その群に占める割合(%) 」にそろえています。グループ比較の図では、縦軸が件数か割合か を必ず確認してください。
❌ 「並んだヒストグラムは軸もそろっている」とは限らない
原論文の図5〜図8(本ページ図3・図4)は、左右で横軸の範囲・階級が異なります (例:事業所1次割合は過疎0〜10%、過疎外0〜3.5%)。範囲の違いそのものが発見(過疎地域の方が広く分布)でもあるのですが、ぱっと見の形だけで「同じような分布」と誤読する 危険があります。 審査会コメントも「ヒストグラムの並べ方は分布の差異がよく分かるように並べるとなお良い」と指摘しています。自分で描くときは2群の階級・軸範囲をそろえて重ねる(または上下に並べる) のが定石です。
❌ 「平均の差だけ見れば分布の違いが分かる」ではない
65歳以上の人口の変化率は、平均だけ比べたら見逃す構造 がありました。過疎地域外の方が右の裾が長く 、変動係数(標準偏差÷平均)は 0.40 vs 0.29 で過疎地域外の方がばらつきが大きい。平均・ばらつき・分布の形(裾・山の数)の3点セット で見る癖をつけましょう。平均が近くても分布が全く違うことはよくあります。
❌ 「割合の差=政策の冷遇」ではない——分母と人口構成を疑う
「過疎地域は民生費に占める児童福祉費の割合が低い」と聞くと「過疎地域は子育て支援に冷たい」と読みたくなります。しかし原論文自身が確認したとおり、過疎地域はそもそも15歳未満が9.9%しかいない (過疎地域外12.6%)ため、人口構成の違いで説明できる差 です。 構成比率の差を見たら、まず分母の構造(人口構成) を確認する——原論文のこの手順は、割合データを扱う全ての場面で有効です。
❌ 「外れ値を除外すれば正しい結果」ではない
原論文は 1.5×IQR 基準で外れ値を除外しました。これは基準を先に宣言し、全変数に機械的に適用 しているのでフェアなやり方です。危険なのは「結果が綺麗になるように後から都合の悪い点を外す」こと。 また、除外された市区町村(教育費額726万円の市区町村など)にはそれ自体に情報 があります(極小規模自治体・原発関連交付金など)。除外した数(n の変化)を毎回報告する 原論文のスタイルを見習ってください。
❌ 「市区町村単位の関係は個人にも当てはまる」ではない(生態学的誤謬)
「過疎地域では15歳未満の変化率と65歳以上の変化率に負の相関(−0.31)」は市区町村を単位とした関係 です。ここから「高齢者が増えた家庭では子どもが減る」のような個人・世帯レベルの結論 を引き出すことはできません(生態学的誤謬)。 集計単位(国・県・市区町村・個人)が変わると相関の強さも符号も変わりうる、と覚えておきましょう。
❌ 「相関がある=因果関係がある」ではない
本研究の「第1次産業の比重が高い」は過疎地域の特徴(相関的事実) であって、「第1次産業だから過疎になった」「第1次産業を活性化すれば必ず人口が戻る」という因果関係 を示したものではありません。 地理的条件(山間部・離島)が第1次産業への特化と人口流出の両方 を生んでいる交絡 の可能性もあります。提言(税金投入・資金援助)の効果を確かめるには、政策導入前後の比較や地域間比較など因果推論のデザイン が別途必要です。
📖 用語集(この記事に出てくる統計用語)
本文中で見慣れない言葉が出てきたら、ここに戻って確認してください。
過疎地域
人口の著しい減少等により地域社会の活力が低下した地域。原論文は過疎地域自立促進特別措置法の要件(人口減少率+財政力指数)で判定した。現在は「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」(令和3年〜)に引き継がれている。
財政力指数
地方公共団体の財政力を示す指数(基準財政収入額÷基準財政需要額の過去3年平均)。1を下回るほど自前の税収で行政需要を賄えない=財政力が弱い。過疎指定の要件に使われる。
四分位数 ・四分位範囲(IQR)
データを小さい順に並べて4等分する位置の値(Q1=下から25%、Q3=75%)。IQR=Q3−Q1 は「真ん中50%の広がり」を表し、外れ値検出の基準(Q1−1.5×IQR/Q3+1.5×IQR)に使う。
外れ値
他のデータから極端に離れた値。分布の比較や相関係数を大きく歪めるため、原論文は基準を宣言した上で除外し、除外後の n を毎回報告している。
変化率
(後の値−前の値)÷前の値×100(%)。規模の違う市区町村を比べるために、実数ではなく変化の割合に変換する。
構成比率
全体に占める部分の割合(例:事業所に占める第1次産業事業所の割合)。市区町村の規模の影響を取り除いてグループ間比較を可能にする。
変動係数(CV)
標準偏差 ÷平均 。平均の水準が違う2つの分布の「ばらつきの大きさ」を単位に依存せず比較できる。本研究では 65歳以上人口の変化率で過疎0.29 vs 過疎外0.40。
相関係数
2変数の直線的な関係の強さを−1〜+1で表す指標。原論文は表1の基準(|r|≦0.2 相関なし、0.2〜0.4 弱い、0.4〜0.7 中程度、0.7〜 強い)を宣言してから判定している。
ヒストグラム
データをいくつかの階級(区間)に分け、各階級の度数(または割合)を棒の高さで表した図。分布の形・位置・裾を読むための基本の道具。
民生費/児童福祉費/老人福祉費
民生費は市町村の歳出のうち福祉関係の経費。その内訳に児童福祉費(子ども向け)・老人福祉費(高齢者向け)などがある。児童福祉費・老人福祉費は SSDSE 未収録のため原論文は e-Stat(地方財政状況調査)から取得した。
第1次産業
農業・林業・漁業(日本標準産業分類の大分類A・B)。第2次産業は鉱業・建設業・製造業、第3次産業はそれ以外のサービス業等。
SSDSE
教育用標準データセット。独立行政法人統計センターが公的統計から整備・公開している。SSDSE-A は市区町村×基本項目のデータ(本研究の主データ)。
📐 使っている手法をわかりやすく解説
この論文で使われている手法について「何のためか」「結果をどう読むか」を初心者向けに解説します。
◆ 統計の基本概念(どの論文にも共通)
🔍 分布を「比べる」とは
何? 2つのグループの違いは、平均1つの差ではなく「分布ぜんぶ」の違いとして現れる。位置(どこに山があるか)・広がり(ばらつき)・形(裾の長さ・山の数)の3点で比べる。
なぜ必要? 平均だけの比較は情報を捨てすぎる。本研究の65歳以上人口の変化率のように「平均は近いが裾とばらつきが違う」ケースを見逃す。
読み方 まずヒストグラムを並べ、最頻階級(山)と裾を見る。次に平均・標準偏差・変動係数などの数値で裏づける。順番は「図→数値」。
🔍 相関 と因果
何? 相関は「一緒に動く」という観察事実、因果は「片方を動かすと他方が動く」という仕組みの主張。相関は因果の必要条件ですらない(交絡で見かけの相関が生じる)。
なぜ必要? 「過疎地域は第1次産業の比重が高い」(相関的事実)と「第1次産業を活性化すれば過疎地域が発展する」(因果を含む提言)は論理のレベルが違う。区別して読む必要がある。
読み方 相関係数の判定基準(原論文 表1)を先に宣言する。解釈の際は第三の変数(地理・人口構成)の影響を必ず考える。
◆ この論文で使われている手法
📊 ヒストグラム による2群の分布比較
何? データを階級に区切り、各階級の割合を棒の高さで表す。過疎地域と過疎地域外で同じ変数の分布を並べて、位置・広がり・形の違いを読む。
どう使う? 群のサイズが違う(513 vs 1228)ので、縦軸は度数でなく各群に占める割合(%) にそろえる。原論文はExcelの分析ツールで作成(横軸ラベルは階級の上端)。
何がわかる? 「過疎地域の分布を+10%平行移動すると過疎地域外とほぼ一致」のような、平均差だけでは表せない分布レベルの発見。
結果の読み方 最頻階級(山の位置)→裾の長さ→2群のずれ、の順に読む。
⚠️ 注意点 (1) 階級幅・軸範囲を2群でそろえないと形の比較を誤る (原論文の図は左右で軸が違うものがあり、審査会コメントでも並べ方の改善が指摘された)。(2) 階級幅を変えると印象が変わる ので、幅の根拠(スタージェスの公式など)や感度を確認する。(3) 縦軸が件数か割合かを明記する。
🔗 相関分析 (ピアソンの相関係数)
何? 2変数の直線的な関係の強さと向きを−1〜+1の1つの数値にまとめる。
どう使う? 本研究では「15歳未満の変化率×65歳以上の変化率」「児童福祉費割合×老人福祉費割合」を、過疎地域・過疎地域外それぞれで計算し、群間で関係の構造が違うかを見た。
何がわかる? 過疎地域だけで負の相関(−0.31)が出る=少子化と高齢化の連動は過疎地域特有、といった群による構造の違い 。
結果の読み方 事前に宣言した基準(表1)に照らして「弱い/中程度/強い」を判定。n も併記する。
⚠️ 注意点 (1) 外れ値1点で大きく動く ため、原論文のように外れ値処理とセットで使う。(2) 直線関係しか測れない (U字型の関係は r≈0 になる)ので散布図の確認が先。(3) 割合どうしの相関 (児童福祉費%×老人福祉費%)は分母が共通なため機械的に負の方向へ引っ張られる(構成比データの制約)。(4) 相関≠因果。
📏 四分位範囲(IQR) による外れ値 検出
何? Q1−1.5×IQR 未満、Q3+1.5×IQR 超のデータを外れ値とみなす、箱ひげ図と同じ基準の検出法。
どう使う? 分析の前処理 として、変数ごと・群ごとに適用し、外れ値を除いたデータで分布比較・相関分析を行う。
何がわかる? ごく少数の極端な市区町村(教育費額726万円など)に平均や相関が引きずられるのを防げる。
結果の読み方 除外後の n を必ず報告する。原論文は図ごとに n=492、468、…と明記している。
⚠️ 注意点 (1) 1.5×IQR は慣習的な基準 であり万能ではない(右に歪んだ分布では正常な値まで外れ値扱いになりがち)。(2) 基準は分析前に宣言し、全変数に一律に適用する (結果を見てから外すのは改ざんに近い)。(3) 除外した観測にも情報がある ので、何が除外されたかを確認する。(4) 0除算の扱い(原論文は結果を0とする)のような前処理規則も明文化する。
📐 変動係数(CV)によるばらつきの比較
何? 標準偏差 ÷平均 。ばらつきを平均に対する相対値で表す。
どう使う? 平均の水準が違う2群(65歳以上の変化率:過疎と過疎外)のばらつきを公平に比較する。
何がわかる? 過疎地域外(0.40)の方が過疎地域(0.29)よりばらつきが大きい=高齢者急増の市区町村は過疎地域外に偏在する、という発見。
結果の読み方 値が大きいほど相対的なばらつきが大きい。単位が違う変数どうしの比較にも使える。
⚠️ 注意点 (1) 平均が0に近い変数では発散して使えない (変化率のように正負をまたぐデータでは特に注意。本研究の65歳以上変化率は平均が十分正なので問題ない)。(2) 負の値を含むデータでは解釈が難しい。 (3) CVだけでなく分布の形(裾)も併せて見る。
🥧 構成比率の算出とグループ間比較
何? 全体に占める部分の割合(第1次産業事業所÷全事業所など)を計算し、その平均や分布を群間で比べる。
どう使う? 規模が桁違いの市区町村を比較可能にするため、件数を割合に変換してから群平均(表5)と分布(図7・図8)を見る。
何がわかる? 「第1次産業だけ約3.6〜4.4倍の差、第2次・第3次はほぼ差なし」のような、産業構造の違いの所在。
結果の読み方 倍率(4.4倍)とパーセントポイント差(2.2%)を区別する。小さい割合どうしの倍率は差が誇張されて見えることがある。
⚠️ 注意点 (1) 割合の平均は「合計から計算した割合」と一致しない (小さい村の割合も大きい市の割合も等しく1票として平均される)。どちらを使うかで意味が変わる。(2) 分母の定義(民営のみか公営含むか等)を確認する。 (3) 割合が高い=絶対量が多い、ではない (過疎地域は割合が高いが従業者の絶対数は少ない)。
🚀 発展の可能性(結果 X → 新仮説 Y → 課題 Z)
この研究をさらに発展させるための3つの方向性を示します。「今回わかったこと(X)」から「次に検証すべき仮説(Y)」を立て、「具体的に何をするか(Z)」まで考えてみましょう。
① 新しい過疎法での再分類と時点比較
結果 X 原論文は旧法(過疎地域自立促進特別措置法)の要件で513市区町村を過疎地域と判定した(データは1980〜2017年)。
新仮説 Y 令和3年施行の「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」の指定(約885市町村・全市町村の過半)で再分類すると、過疎地域の範囲が広がり、本研究の「差」はより薄まる(あるいは第1次産業の集中はさらに鮮明になる)のではないか。
課題 Z (1)総務省が公表する過疎地域指定市町村一覧(CSV)を入手し、SSDSE-A-2025 と市区町村コードで結合する。(2)本ページ図5の4指標を2群に分けて描き直し、原論文の図3・図4・図7・図8と比較する。(3)旧法指定と新法指定で結果がどう変わるかを考察する。
② 手法の発展:分布比較の検定・要因の統制
結果 X 本研究の比較は記述統計(ヒストグラム・平均・変動係数・相関)で、差の統計的有意性や他要因の統制は行っていない。
新仮説 Y 2群の分布差は Mann-Whitney U 検定・KS検定で確認でき、また「過疎かどうか」を目的変数にしたロジスティック回帰で、どの指標が過疎該当と最も強く関連するかを同時に評価できる。
課題 Z (1)第1次産業従業者割合について2群の Mann-Whitney U 検定を行い、p値と効果量 を報告する。(2)人口規模・可住地面積などを統制した上でも第1次産業の差が残るかを回帰で確認する。(3)検定結果と原論文の記述的結論を突き合わせる。
③ 提言の効果検証:第1次産業支援は過疎地域を発展させるか
結果 X 原論文は「国の税金投入」「自治体による従事希望者への資金援助」を提案した。
新仮説 Y 実際に新規就農支援・地域おこし協力隊などの施策を強化した過疎市町村では、そうでない過疎市町村より人口減少や第1次産業従業者の減少が緩やかなのではないか。
課題 Z (1)農林水産省の新規就農者調査や総務省の地域おこし協力隊データを市町村単位で集める。(2)施策導入の前後比較や導入・非導入市町村の比較(差の差分析 )を設計する。(3)「相関的な提言」を「効果の推定」に格上げできるか検討する。
🎯 自分でやってみよう(5つのチャレンジ)
学んだだけでは身につきません。実際に手を動かす のが最強の学習方法です。本論文のスクリプトをベースに、以下のチャレンジに挑戦してみてください。難易度別に5つ用意しました。
★☆☆☆☆ 入門
CH1. スクリプトを実行して図5を再現する
付属の Python スクリプト(code/2019_H3_suri.py)をそのまま実行し、図1〜図5を生成してください。
ポイント: どの図が「報告値の可視化」で、どの図が「実データ再現」かをコード上で確認する。IQRで除外される件数(77・149・135・134)が手元でも一致するか確かめる。
★★☆☆☆ 初級
CH2. 外れ値基準を 1.5×IQR から 3.0×IQR に変えてみる
iqr_filter の係数を 3.0(「極端な外れ値」の慣習基準)に変えて、除外件数と平均がどう変わるか比較してください。
ポイント: 基準の選び方ひとつで n と平均が動くことを体感する。どちらの基準が妥当か、理由つきで説明できるように。
★★★☆☆ 中級
CH3. 都道府県別に第1次産業割合の分布を描く
SSDSE-A-2025 の「都道府県」列で groupby し、従業者1次割合の中央値が高い都道府県トップ10を横棒グラフにしてください。表4(過疎地域が多い道県)と見比べてみましょう。
ポイント: 北海道・高知・鹿児島・島根など「過疎地域数が多い道県」と「第1次産業割合が高い道県」の重なりを確認する。
★★★★☆ 上級
CH4. 総務省の過疎地域リストで「2群比較」を本当に再現する
総務省サイトから最新の過疎地域指定市町村一覧を入手し、市区町村コードで SSDSE-A-2025 に結合して、図5の4指標を過疎/過疎外の2群で描き分けてください。
ポイント: 原論文の図3・図4・図7・図8と同じ「二つの山」が最新データでも現れるか。指定要件が旧法と違う点(一部過疎・みなし過疎の扱い)にも注意。
★★★★★ 発展
CH5. 別の地域区分で「分類→分布比較」を丸ごと応用する
過疎/過疎外の代わりに、あなた自身の地域区分(豪雪地帯・離島・半島振興対策地域・県庁所在地かどうか等)で1741市区町村を2群に分け、人口・財源・産業の分布を比較するオリジナル分析をしてください。
ポイント: 分類基準の宣言→変数の加工(割合化)→外れ値処理→分布比較→相関、という原論文の型をそのまま流用する。問い・データ・手法・結論を1ページにまとめる。
💡 ヒント: 詰まったら本サイトの他の論文(同じくヒストグラム・相関分析を使っている)のスクリプト をコピーして組み合わせるのが効率的です。手法ガイド・用語集も参考に。
💼 この手法は実社会でこう使われている
「地域をグループに分けて分布を比較する」——本論文の分析の型は、行政・企業・研究の現場でそのまま使われています。
🏛️
行政の過疎対策・地方創生
総務省・都道府県は、過疎指定の要件判定そのもの(人口減少率×財政力指数)に加え、指定地域と非指定地域の指標比較で施策の優先順位を決めています。本論文の分類→比較はその縮図です。
🌾
農林水産政策
「第1次産業の担い手はどこにいるか」という本論文の問いは、新規就農支援・漁業就業者確保・中山間地域等直接支払制度など、農水省の施策設計で日常的に分析されているテーマです。
🏢
企業の出店・撤退戦略
小売・金融・物流企業は、市区町村を人口動態や産業構成でセグメントに分け、各セグメントの分布を比較して出店・撤退やサービス水準を決めます。分類→分布比較はマーケット分析の基本形です。
🏥
医療・介護資源の配置
高齢化率や老人福祉費の地域分布は、医療圏ごとの病床配分・介護施設整備・ドクターヘリ配備などの計画に直結します。「割合の差は人口構成の違いか」という本論文の確認手順も必須です。
📰
データジャーナリズム
「消滅可能性都市」報道など、市区町村を条件で分類し分布を示す記事は数多くあります。階級の切り方・縦軸(件数か割合か)で印象が変わることを知っていれば、記事を批判的に読めます。
🎓
学術研究(地域経済学・農村社会学)
条件不利地域の産業構造・財政構造の研究では、本論文と同じ「制度上の地域区分×公的統計」の組み合わせが標準的な出発点です。記述統計の丁寧さが後続の因果分析の土台になります。
🤔 よくある質問(読者からの想定Q&A)
この論文を読んで初心者が抱きやすい疑問に、教育的観点から答えます。
Q1. この分析、自分でもできますか?
部分的にできます。SSDSE -A(市区町村データ)は無料で公開されており、式3・式4・式7・式8の計算と IQR 外れ値検出は本ページのスクリプトで再現できます。ただし過疎地域の分類 には過去の国勢調査人口と財政力指数(e-Stat)が別途必要です。総務省の過疎地域指定リストを使えば、現行制度ベースの2群比較なら高校生でも十分可能です(チャレンジCH4)。
Q2. なぜ2019年の論文なのに1980年や1995年のデータを使うのですか?
過疎の定義が「長期の人口減少」だからです。法律の要件が「1980年→2005年で17%以上減少」等と定められているため、判定には約25年前からの人口が要ります。また変化率(式1・式2)は1995年→2015年の20年間で計算されています。「いつからいつへの変化か」を明記する のは時系列比較の基本です。
Q3. 結論の「第1次産業を活性化すれば過疎地域が発展する」は証明されたのですか?
いいえ。本論文が示したのは「過疎地域は第1次産業の構成比率が突出して高い」という記述的事実(相関的な特徴づけ) で、活性化策の因果効果 を検証したものではありません。ただし、データから地域の「強み」を特定し、そこに提言を接続する論理は明確で、審査会も「高校生なりの提言」として高く評価しています。効果検証は発展課題(本ページ「発展の可能性」③)です。
Q4. 最新のデータや制度で同じ分析をするとどうなりますか?
2つ変わります。(1)制度:令和3年施行の新過疎法では指定市町村が約885(全市町村の過半)に拡大しており、旧法の513とはグループの構成が異なります。(2)データ:本ページ図5のとおり、2021年経済センサスでも第1次産業割合の右裾の長い分布は健在で、事業所1次割合3.0%超は全市区町村の29.8%でした。構図(第1次産業の担い手が特定の地域に集中)は現在も観察できます。
Q5. もっと深く学ぶには何を読めばいいですか?
記述統計と外れ値の扱いは統計検定3級〜2級の範囲のテキスト(日本統計学会編『データの分析』など、原論文も参照しています)が最適です。地域データ分析なら『地域分析ハンドブック』や e-Stat の「統計ダッシュボード」も役立ちます。過疎政策そのものは総務省「過疎対策の現況」が一次資料です。本サイトの他の論文も読み比べてみてください。
✅ 理解度チェック(4問)
この論文を理解できたか、クリックで確認しましょう。間違えても解説が出ます。